「食の戦争、米国の罠に落ちる日本」(鈴木宣弘著、文藝春秋)p174~175
欧米で我が国のコメに匹敵する基礎食料の供給部門といわれる酪農については、「欧米米で酪農への保護が手厚い第一の理由は、ナショナル・セキュリティ、つまり、牛乳を海外に依存したくないということだ」(コーネル大学カイザー教授)、「牛乳の腐敗性と消費者への秩序ある販売の必要性から、アメリカ政府は酪農を、ほとんど電気やガスのような公共事業として扱ってきており、外国によってその秩序が崩されるのを望まない」(フロリダ大学キルマー教授)といった見解にも示されているように、国民、特に若年層に不可欠な牛乳の供給が不足することは国家として許さない姿勢がみられる。我が国のように牛乳・乳製品の自給率が70%に満たなかったら、欧米では社会不安が生じるのではないだろうか。
酪農品の国際競争力は、オーストラリアとニュージーランドが突出して強いため、EU諸国やアメリカといえども、輸出力で勝てないのはもちろん、オセアニアからの輸入を制限する防波堤(保護措置)がなければ、国内自給さえ確保することができないのである。
そこで、EUもアメリカも乳製品には高関税を課し、国内消費量の5%程度のミニマム・アクセスに輸入量を押さえ込んでいる(ミニマム・アクセスは本来、低関税の輸入機会の提供であり最低輸入義務ではないから、実際は枠が未消化の場合が多い)。その上で、余剰乳製品は政府が買取価格を設定して買い入れ、過剰在庫が生じれば、輸出補助金を使った輸出か、食糧援助によって海外市場に仕向けられる。
こうして、本来ならオセアニアからの最大の輸入国になるはずのEUやアメリカが、逆に輸出国になり得ているのである。決して競争力があるから輸出しているのではない。(抜粋は、ここまで)
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「ナショナル・セキュリティ、つまり、牛乳を海外に依存したくないということだ。」
「アメリカ政府は酪農を、ほとんど電気やガスのような公共事業として扱ってきており、外国によってその秩序が崩されるのを望まない。」
アメリカ政府は、国家の安全を図るに当たり、牛乳を非常に重視している。
EUも同じみたいだ。